■ 飄々としたタフガイ  −「トレロカモミロ」「マヌエロ」−

 じつは私は「みんなのうた」オタクであった。まず幼稚園から小学校低学年にかけて親しんだ時期があって、しばらくブランクを経たが中学〜高校生の頃に再びはまった。この2曲はそのうちの前期、私が幼少だった頃に同番組で流れた曲で、どちらも私の中では強く印象に残っている。最近某サイトで「トレロカモミロ」について質問してきた方がおられたのをきっかけに、私の中で眠っていたみんなのうた熱がにわかにぶりかえしてしまった。今回は耳コピはしない(楽譜集を見れば載っているから)のでこちらの欄に曲への思い入れなど綴ってみる。

 「トレロカモミロ」という歌はおそらく多くの方が1度は聴いたことがあると思うが、「マヌエロ」という歌をご存知の方は少ないかもしれない。しかし私はどちらかというと「マヌエロ」のほうが好きだった。今回調べた過程で、2曲とも作曲はパガーノ、訳詞は阪田寛夫という同じコンビによる曲だとわかった。そう言われてみると、2曲の構成には共通点が多い。片や牛と闘う闘牛士、片や山賊と闘うソンブレロをかぶったチビの小僧という違いがあるが、いずれも

(1) 乱暴者が現れた。人々は敵を倒すヒーローの登場を待っている。
 ↓
(2) そこへさっそうと(?)ヒーロー登場。しかしなんだか頼りない男だ。
 ↓
(3) 敵は猛然とヒーローに襲いかかる。ところが一見とぼけた感じのヒーローは実はめっぽう強く、軽々と敵をあしらい、あれほど猛々しかった敵がだらしなく降参してしまう。命がけの決戦の場はお笑いの舞台と化したのだった。

というストーリーである。長年口ずさんでいたが、この共通点には今まで気付かなかったな。うがった見方をすれば、「トレロカモミロ」で当てたNHKが再び同様の曲を送りこんで2匹目のドジョウを狙ったようにも見える。

 どちらの曲も、メロディーが軽快で、かつインパクトがある。訳詞もよくできていて、曲のフレーズを生かしつつみごとに情景を描いて余すところがない。冒頭の「♪牛は黒牛」という部分を聴いただけで、リズム感、コードの変化に引き付けられ、同時にどうもうな黒牛のイメージが広がってワクワクする。

 「オレ!」というフラメンコ風の合いの手も子供心に新鮮だった。
 子供(とくに幼児)は印象的なフレーズをもつ曲を好む。「だんご三兄弟」の場合は「♪だんご、だんご…」、「おどるポンポコリン」は「♪ピーヒャラピーヒャラ…」。郷ひろみの「Gold Finger '99」が大ヒットしたのも、「♪アーチーチーアーチー」というフレーズが子供たちにウケたという要因が大きいであろう。「箱根八里の半次郎」にしても、サビの「♪やだねったら やだね…」の部分がヒットに結び付いたのだ(と思う)。
 「トレロカモミロ」におけるそれは「♪オレオレオレ!」という合いの手。「マヌエロ」の場合は、やはり主人公の名をこれでもかとばかりに長く伸ばすフレーズであろう。例として1番のサビの歌詞を、リズムとともに書き出してみよう。4分の3拍子で、|は小節の区切りを示す。

 その|名はマ|ヌ・・|エーー|ロあた|まにソン|ブ・・|レーー|ロただ|ひとり|
 |チョコラ|マカラ|すすむ|のはマ|ヌーー|・・・|エーー|・・・|
 |エーー|・・・|ローー|ーーー|ーーー|ーーー|ーちび|のこぞ|う

 かつて、主人公の名をたった1回呼ぶのに足かけ12小節使った曲が他にあっただろうか。これが3番になるとさらに4小節増えて足かけ16小節なのだから、いやが上にも印象に残ってしまう。

 しかしながら、この2曲が子供の心を捉えた一番の要因は、やはり主人公の強さではないだろうか。言うまでもないが子供はウルトラマンや仮面ライダーのような強いヒーローが大好きである。だが一方で、ヒーローがあまりにも正義漢ヅラをしていたり、ストイックな戦士ぶりを強調したりしていると、見ているほうは引いてしまう場合がある。
 闘牛士カモミロは正義漢でもストイックな戦士でもなく、闘いよりも昼寝が好きなとんでもないネボスケである。興奮した牛を前に、あくびしながら闘牛場へ出てきたかと思うと「それじゃみなさんおやすみなさい」と言って寝てしまうぐらいなのだ。もちろんこのような行動は、彼が牛を片手でヒョイところがせるような強い男であるからこそできる芸当である。
 マヌエロも、チビの小僧にもかかわらず腕ききのガンマンなのだが、正義漢とか戦士というイメージとは程遠い。敵の胸板を撃ち抜くことはせず、そのかわり敵のヒゲを弾丸で落してしまういたずら者。ヒゲを失って逃げる山賊に、お土産として毛生え薬を持たせるところなど、やんちゃぼうず丸出し。
 2人とも、完全に闘いを遊びだと思っている。それがある意味で強さのしるしであり、子供にとっては憧れだったりする。

 あ、これって洋モノのアニメによくあるパターンだなあ。
 そう、私はウルトラマンとか仮面ライダーには全く興味が無く、ポパイとかスーパースリーといった洋モノ系アニメが好きな子供だったのだ。頑張る熱血ヒーローよりも、笑える底抜けヒーロー。そういった作品が投げかけているのは「飄々としたタフガイ」という生き方もアリだ、というメッセージであり、逆に言うと、タフガイだけが飄々と生きる資格がある、というメッセージでもあるかもしれない。
 その点で、カモミロやマヌエロは、「仮面ライダー」でなく「スーパースリー」型のヒーローなのであった。ラリホー! (01. 1. 5)


■ 阪田寛夫訳詞、M.パガーノ作曲「トレロカモミロ」1970年2・3月「みんなのうた」で初オンエア/「NHKみんなのうた楽譜集」(NHK出版)第11集に所収
■ 阪田寛夫訳詞、M.パガーノ作曲「マヌエロ」1972年10・11月「みんなのうた」で初オンエア/「NHKみんなのうた楽譜集」第14集に所収

After 5