RNA研究の知見を基礎とした次世代の疾患治療法研究
mRNAからタンパク質に翻訳される時、3つの塩基配列で特定のアミノ酸を顕わします。つまり、mRNAには3塩基ごとの「読み枠=reading frame」が存在しています。もし、この読み枠がずれてしまうと、全く異なる遺伝情報になってしまい、不完全なタンパク質しかできません。つまり、たった1塩基(あるいは2塩基)のずれで大切なタンパク質の情報は意味を失うのです。この様な「読み枠のずれ」を原因とする症例は多く知られており、その様な疾患の治療法として人為的なexon-skip(右図)が提案されています。即ち、特定のexonをスキップさせることで読み枠を合わせ、タンパク質の合成を可能にする方法です。RNAスプライシング研究で得られた知見を、効率的に人為的なexon-skipを誘導する疾患治療法に応用しようとしています。
また、生体内にはRNAが編集されて遺伝暗号が変わってしまう、RNAエディティングという機構が存在します。右図は遺伝子の4つの塩基のうち、アデノシンとシチジンの構造式です。青い円で示し様に、-NH2を持っていますが、これを脱アミノ化して-NH2の代わりに=Oとするとそれぞれイノシンとウリジンになります。イノシンの相補的塩基はCなので、遺伝コードはグアノシンと同じです。つまり、転写後の脱アミノ化によって遺伝コードがAからGあるいはCからTに変化するのです。
私たちは、この様なRNAエディティングを模倣して遺伝子の修復ができるのではないかと考えています。もし、部位特異的にCやAを脱アミノ化してUやIに変換することができれば、T→CあるいはG→A変異を原因とする遺伝性疾患を治療できます。核酸化学を専門とする藤本研究室との共同研究やタンパク質工学の利用で、部位特異的なRNAの脱アミノ化法の確立を目指して研究しています。
この他にも、常染色体優性遺伝形式を示す疾患の多くは、細胞内に有害な産物が発現すると考えられています。有害なmRNAの有害部分を切断・除去したり、mRNAに結合して有害なタンパク質の生合成を阻害することができれば病態の改善が期待できます。これらもRNAに直接結合して作用する次世代医薬のターゲットです。
この様に、私たちの研究室ではRNA研究の知見を活かし、RNAに直接作用してRNAの機能を改善する次世代の疾患治療法の研究に取り組んでいます。従来の遺伝子治療は、機能しない遺伝子に代わりの遺伝子を補充する治療でした。私たちは壊れた遺伝子を修復する治療の確立を目指して研究を続けています。