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選択的スプライシングの全容解明に向けた基礎研究

真核生物では、exonと呼ばれるmRNA情報をコードした配列が、一見無意味なintron配列によってDNA上で分断されています。RNAは転写によってDNAから生成した後に、intron部分が切り外されてmRNAとなりますが、この過程をスプライシングと呼びます。

ヒトゲノムプロジェクトによって遺伝子の全塩基配列が解明された結果、ヒトの持つ遺伝子数は25,000以下と推定されています。一方で、タンパク質は少なくとも20万種以上存在すると考えられています。なぜ、設計図である遺伝子の数よりもタンパク質の種類が圧倒的に多いのでしょうか?その答えの一つが選択的スプライシングです。選択的スプライシングによって、生物は単一のゲノム遺伝子からスプライシングのされ方の異なる複数のmRNAを生成することができます。

選択的スプライシング

選択的スプライシング

選択的スプライシングには、右図のように様々な種類があります。この機構によって、全体の一部分のみが異なるmRNAが生成され、機能が一部異なる多種類のタンパク質を合成することが可能になります。

細胞が単に分裂して増殖するだけではただの塊になってしまいます。個々の細胞の機能や形態が様々な細胞に変化する(分化する)からこそ、複雑な生命機能が発揮できるのです。私たちは幹細胞と良く似た性質を持つ、胚性腫瘍細胞・マウスP19細胞の分化誘導モデルを用いて細胞分化に伴った選択的スプライシングの変化を解析しています。細胞が大きく変化する分化においては、遺伝子発現は転写レベルの変化だけでなく、スプライシングによっても大きく変化することが知られています。特に高度で複雑な機能を果たす神経系に発現する遺伝子は選択的スプライシングによって様々な調節を受けていることが知られています。

神経特異的exonの同定

神経特異的exonの同定

P19細胞の分化誘導過程のmRNAをマイクロアレイを用いて網羅的かつ詳細に解析することで、神経特異的に選択的スプライシングを受けるexonの同定を行いました。Exonごとの発現頻度を網羅的に解析して隣り合ったexonの発現頻度と比較することによって、神経特異的なexonを同定した結果(右図)、我々はこれまで既知であった神経特異的exon数の約2倍もの新規な神経特異的exonを同定しました。この知見は、我々の解析法の有効性を示すと共に、神経特異的なスプライシングが想像以上に多いことを示しています。私たちはこの様な神経特異的スプライシングが脳や神経の機能にどの様に貢献しているのかを解明したいと考えています。