水泳選手のためのスポーツ食事学

  水泳選手としてより高いレベルを目指すには、それにふさわしい栄養バランスを作り上げる事が絶対必要です。 それには、自分の好きなものを腹一杯食べるという事では成り立ちません。
 例えば、炭水化物(ご飯、パン、麺類、菓子などに多く含まれる)や脂肪を摂り過ぎると、皮下脂肪が増え体重増となり、記録がかえって落ちてしまいます。
  脂肪は凝縮したエネルギー源で、消化するのはやや困難です。
 しかし、消化に時間がかかるので空腹を鎮めるためには有効になります。また、脂肪は脂溶性ビタミンを体が吸収するのを助け、ナトリウムとカリウムのバランスを調整してくれますから悪いことばかりではありません。しかし余分な脂肪は体の中で蓄積されますから、必要以上にはとらないようにしましょう。また体脂肪が多い人はダイエットが必要になります。ダイエットといえば女性の専売特許のように感じる人もいるとは思いますが、バランスのとれたダイエットはトレーニングにおいて欠くことのできない要因のひとつです。
  例えば体重が75キロで7%の過剰脂肪がある人は、5キロのよけいな重りを持っていることになります。そして体内の過度の脂肪は疲労を早め、特に運動では、大きなハンデとなります。
  体重が超過したらまず最初にすることは脂肪分の多い食事、糖分を含んだ食事、そしてアルコールを制限することです。ただし毎週の減量が1キロ以上にならないように注意します。
  食べ物の摂取量が消費量を越えてしまうと、脂肪が体内に蓄積されます。体内の脂肪は簡単にはエネルギーとして利用されません。脂肪がエネルギーに変換されるのは通常グルコースが消費されたときだけです。
  体脂肪の適切な比率は通常男性で7〜9%といわれていますが、なかなかこのレベルに達している選手は多くないようです。トレーニングによって体脂肪を減らすときには、ゆっくり減らしていくということを忘れないようにします。できればシーズンが始まるかなり前から始め、体がそれになれるようにしましょう。
 脂肪の摂取を少なくする方法
 脂肪を多く含む食べ物は、例えば菓子パン、パイ、ピザ、フライなど油やバターで調理したもの、フライドポテト、ソーセージ、チョコレート、ケーキ、クリームなどがあります。
 肉の調理をするときには油の部分を取り除きます。鳥肉は皮を外します。
 赤みの肉を食べる代わりに、ときどき魚や豆を食べます。
 なるべく油を使った調理はしないようにします。(たとえばじゃがいものカロリーはわずかですが、フライにすると脂肪は13%になります。これは元のじゃがいものカロリーの3倍です。)

 栄養素の役割はそれぞれ異なっているわけで、必要量もまた、普通の場合と比べて、大きく異なっています。
 さらに重要な事は、トレーニング期、調整期、試合時とそれぞれの状態によっても必要量を変える必要があります。 したがって、理想的な栄養バランスを作り上げるには、選手の置かれている状態・時期・自分としての強化すべきポイントによって栄養素の種類・量・タイミングを決める必要があります。

 具体例
   ・試合の一週間前からは、ベストコンディションを作り上げるため、ビタミンCは普通の10倍(10個分)以上必要。しかも一日3回に分けて摂取する事。
   ・試合直前のエネルギー補給には、すぐエネルギーとなりやすい炭水化物の多い食事をする事。
   ・ディスタンスの場合には、試合の3〜4日前からエネルギーを十分蓄積するため、高炭水化物食を進める事。

などがあげられます。

 水泳をはじめ、スポーツをするための原動力は筋肉です。確かに泳ぎの上手さは必要ですが、水泳でも筋肉のサイズを高めなければスプリント能力、記録の向上は望めません。
 筋力強化=筋肉量の増大のためには、筋肉に刺激を加えるトレーニング(過負荷の原則)と蛋白質の十分な摂取(これも過負荷でなければいけない)が必要です。
 この両者がバランスよく(トレーニングの過負荷及び蛋白質の過負荷…2.5倍〜3.0倍)進められなければより大きな効果は期待できず、記録の壁も破れません。
 筋肉は週3〜5回最大筋力の60〜80%くらいの刺激を一定回数加えなければ増大しません。その時筋肉の主原料である蛋白質を十分摂取しなければその効果も半減する事になります。また、蛋白質摂取不足の状態でトレーニングを続けると貧血やケガを招く事にもなりかねません。

 蛋白質は体の組織の修復と成長になくてはならないものですが、同時に体の水分を維持するためにも必要です。またビールスやバクテリアと戦う交代を作るのを助け、インシュリンやアドレナリンなどの化合物にも必須のものです。筋肉組織の修復といっても怪我などに限りません。運動をして筋肉が刺激されると、筋肉は破壊されて刺激に耐えるように作り替えられます。
 そのためには新しい蛋白質が必要になります。ただし、闇雲にたくさん摂ればいいというわけではありません。その理由はハードなトレーニングをしても、蛋白質の新陳代謝にはそれほど変化がないためです。筋肉強化トレーニングのための蛋白質摂取量は、体重1kgあたり2.5〜3.0グラムです。
  蛋白質は肉、卵、などにたくさん含まれていますが、これらの食品はウエイトトレーニングのときでもそれほど必要ではありません。蛋白質の摂取量は運動の量に応じて変化させなくてもいいからです。
 反対に過度の蛋白質摂取は、脱水症状を起こす恐れもあります。多くの選手は蛋白質を多量に摂取すれば筋肉を大きくできると思っていますが、これは、間違っています。多すぎる蛋白質の摂取は肝臓に負担をかけ、よけいな尿を排出します。また余った蛋白質は体の中で脂肪に転換されます。
 また蛋白質は基本的に体を作るものですから、高蛋白の食事はエネルギー源としてはあまり役に立ちません。ですから、レースの前などにはあまりとらない方がいいでしょう。体はすぐに利用できる炭水化物をエネルギー源として使い、炭水化物を使いきってしまったときにだけ蛋白質を分解してエネルギーとするのです。そうしたことが理解できれば、運動量が増したからといってステーキを食べてもあまり意味がないことが分かると思います。必要な量の蛋白質を補給するためには、赤身の肉、鳥肉、卵、豆、牛乳などをとればいいでしょう。
 より効果的な筋肉作りには、1日の回数や1回あたりの量も考えなければいけません。いくら蛋白質が筋肉の源といっても、いっぺんに摂り過ぎると余分なものは脂肪になってしまう事もあります。また、夕食や夜食を摂りすぎるとその傾向が促進されます。1回の食事の蛋白質は50gくらい(肉ならば300gくらい)を上限とし、一日5回くらいに分けて摂ったほうが筋肉作りのためには効果的です。
  蛋白質食品のなかでも、選手は特に低脂肪のものを選ぶことが大切です。脂身の多い肉、ソーセージ、鳥肉の皮、クリームミルクなどは避けるようにしましょう。また料理するときに目に付いた脂肪分は取り除くようにします。もちろん調理でも油を使うのは最小限にし、たてえば蒸したり網で焼いたりして、フライにするのは避けてください。
 たとえばパンと豆のスープ、トーストにベークドビーンズ、またミルク、チーズ、ヨーグルトなどと組み合わせてもいいでしょう。
 牛肉や豚肉は脂肪も多く含まれているので、肉だけで蛋白質を摂るとオーバーウエイトにつながりかねません。また、豆類、シリアル、パン、パスタなどといった植物性蛋白質も加える方が望ましいです。ただし植物性蛋白質には鉄分も少ないので、これを補う必要があります。
 最後に、いくらトレーニングと十分な蛋白質摂取を進めても一ヶ月に500gから1kgの筋肉増が限界との事です。したがって、常に体重のチェックや主要部位の皮下脂肪厚のチェックをし、オーバーカロリーかどうかを考えて進める事が必要です。
 
  炭水化物は食物の半分以上を占め、人間にとって最も重要な栄養素の一つです。
 炭水化物は運動の主なエネルギー源です。普通の状態では脂肪と炭水化物がエネルギー源となります。この二つの違いは炭水化物の方が少ない酸素の量でエネルギーを作り出すことです。
  運動を続けるには酸素は貴重ですから、エネルギーに変換するのに少ない酸素で足りる炭水化物の方が有利なのはこれで理解できるでしょう。肝臓や筋肉のグリコーゲンの貯蓄のためには炭水化物を摂ることが重要です。炭水化物にはいろいろな種類がありますが大まかにいって、単糖類は、消化の過程を経ずに直接体に吸収され、複合炭水化物は消化されてから分解されます。
 筋肉と肝臓の細胞中に蓄積されている炭水化物は少量です。肝臓のグリコーゲンは絶えず利用されていて中枢神経系の主なグルコース源となっています。
 運動をすると肝臓のグリコーゲンの利用が多くなります。筋肉のグリコーゲンは筋肉細胞にのみ利用されるので、その筋肉に消費されます。それらのグリコーゲンが減少すればそれに関係する筋肉群が疲労してくると言うわけです。
 グリコーゲンの減少がさらに進むと選手は簡単に疲労するようになります。ですから毎日ハードな練習をする選手は、充分なグリコーゲンの蓄積を維持するためにも炭水化物を豊富に含んだ食事をしなければならないのです。2時間かそれ以上のトレーニングによって消費されたグリコーゲンをもとの状態に戻すには48時間が必要になり、全部の食事のうち70%を炭水化物でとれば、どんなハードなトレーニングをしても毎日必要とするグリコーゲンは十分となります。炭水化物含有量の多い食事をとるには、精製されていない炭水化物をとるべきです。たとえばじゃがいもやパン、豆などはでんぷん質以外にも繊維や、ミネラル、ビタミンなども含んでいます。またでんぷんは糖分に比べると長い時間にわたってエネルギーを供給し、糖分(単純炭水化物)は短期的に供給します。
 でんぷん源としてご飯やパン、バナナを食べることに関心を持つと同時に、クエン酸を含んだオレンジジュースを併せて摂ることがポイントになります。炭水化物だけを摂る場合に比べて、グリコーゲンの回復は極めて急速に行われます。しかし現実にグリコーゲンの蓄積を促進する条件は、練習が終わったり、試合が終わった後、いつ食事を摂るかというタイミングが基本的に大事になります。結論としては、練習後、食事を直ぐに食べることが効果的です。多くのスポーツ選手が練習後1時間半〜2時間後に食事をしているという現実がありますが、それでは何を食べても不十分な効果しか出ません。アイビーらの実験によりますと、70分の運動をして直後にすぐ食事をすると血糖やインシュリンがすぐに上がり、筋肉のグリコーゲンの合成量も上がります。2時間後の食事でも変わらないと思われるかもしれませんが、グリコーゲンの合成量は約半分しか起こらないことが分かっています。したがって、食事を練習後、何時食べるかが大きな問題になるわけです。
 
 水泳で、特に中長距離の場合には、酸素供給能力が大変重要になってきます「後半、ラップタイムが悪くなる」「ラストスパートが上手くいかない」といった場合は、まず酸素供給不足と考えるべきです。
 このための能力を高めるためには十分な泳ぎ込みを続け、酸素を取り入れる肺、ポンプの役目の心臓、酸素の運搬のヘモグロビン(赤血球)を筋肉のすみずみへ血液を届ける毛細血管といった機能・能力を高めていく事が大切なポイントとなります。顔が青白い、バテやすい、コンディションを崩しやすいといった選手は必ずといっていいほど、スポーツ性貧血で す。これでは、いくら素質や技術がよくても、このままでは多くは望めません。
 選手としてレベルアップしていくには、まず何よりもヘモグロビン(赤血球)のレベルアップが重要です。生まれついてのものでなければ、練習の量や強度に十分見合ったバランスのとれた食事(栄養補給)がなされていない事が最大の原因です。

     好き嫌いが激しい
     朝食抜きが多かったり、十分食べていない
     間食が多く、甘いものやスナックが大好き

といった選手に貧血が多いのです。
 赤血球は生まれてから壊れるまで大人では4ヶ月。成長期の子供では2ヶ月程度とされています。
 特に激しい練習に取り組んでいる選手では、さらに速くなっているはずです。そんな時、食事(栄養補給)のレベルが低ければ、壊れる方が速く、貧血となってしまいます。

 スポーツ性貧血の改善・防止には
   ・朝食からしっかり食べる事
   ・鉄分を多く含むレバー、ほうれん草、豆類などをメニューにとり入れる事
   ・朝から蛋白質の豊富な食事をきちんと食べる事

 練習が終わって家に帰ると、どうしても食事が遅くなります。そんな時、目一杯食べてしまうと脂肪をつけやすくし てしまうので注意が必要です。
 また練習により筋肉も血液も消耗しますので、その回復のため、蛋白質やミネラル、そして疲労回復のためのビタミンも十分摂る必要があります。

 したがって、
    消化がよく、体力の消耗を回復するためよく煮込んだ魚や肉料理(もちろん野菜もたっぷりと)。
   ・卵や肉、そして野菜もたっぷりと入れたなべや、きつねうどん等もよいでしょう。
   ・ミルクを飲むか、ミルクを加えた料理を摂る事。
   ・胃に満腹感を与え、しかも実際には過食とならないようにするには、水分のたっぷり加わっている煮込み料理が最高です。

 レース前の食事について
 泳ぐためのエネルギー源は炭水化物がベースです。でも、食べたものがすぐエネルギーにはなりません。いったん腸でブドウ糖などの形となって吸収され、筋肉と肝臓にグリコーゲン(ブドウ糖の結合したもの)となって貯えられます。レース前にこのグリコーゲンが少ないと、後半ガス欠状態となり、ラストスパートをかけようと思っても、思うようにスピードが出ないといった事になります。
 また、特に肝臓のグリコーゲンが少なくなると、血液中にある糖分(ブドウ糖)レベルも下がり、やる気も低下し、へばりやすくなってしまいます。ですから、レース前にいかにグリコーゲンを満タンにしておくかが大変重要になってきます。
 水泳の場合では、競技時間が短いため、レースの前の日からは炭水化物の割合を多くして、肉・魚・卵をあまり沢山とらないようにすると効果的です。
 レース前のエネルギー源・炭水化物といえども、レースのまさに走る寸前には、完全に消化吸収されて、胃腸は空になっていなくてはなりません。消化吸収がすばやくできるものは直前で食べてもかまいませんが、ご飯やパンなどは消化に時間がかかるので、スタートの3〜4時間前、飴やシャーベットは1時間前に食べるようにしてください。レースの前などに糖分を多量に含んだものを食べてしまうと血液中のグルコースを取り除いてしまい、運動能力が低下してしまいます。多量の糖分を含む食べ物は、砂糖、密、ジャム、ケーキ、チョコレート、キャンディ、ソフトドリンクなどがあります。

 ベストコンディションでレースに出る事も高記録達成のために重要な事です。それには、ビタミンB1・C・Eをたっぷりとる事がポイントです。

 風邪を引いて練習を休むという事がないよう、ビタミンCもたっぷり摂りましょう!!