先生のおすすめ本
JAISTの先生がぜひ読んでほしいという図書を,推薦コメント付きで紹介します。
利用者の皆さんにとって新しい本との出会いの機会となれば幸いです。
図書は図書館1階のおすすめ本コーナーにありますので,どうぞご利用ください(貸出可能です)。
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第1回
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定本解析概論 / 高木貞治著 (岩波書店 , 2010.9) |
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解析学(微積分)の古典的な名著です。初版版は1938年発行で、1961年に改定第三版が出版され、私は 1968年発行の改定第三版第9刷をもっています。
現在は、1983年発行の改定第三版 軽装版が発行され、さらには2010年に著者の没後50年を記念して読みやすく組み直し、一部補遺された「定本 解析概論」が発行されたようです。
著名な本ですので、インターネットで様々な書評やさらには読み方などもみることができます。数学を志す学生の入門書ですが、数学を専門としない理工学を志す学生にとっても、数学的な厳密さを抑えて記述されていますので、解析学の基礎的な考え方や数学的な論理展開を学ぶことができます。
数学を専門としない学生にとっては、かなり難しく、読みにくいかもしれません。私の経験ですが、仲間を募って議論をしながら、概念を図で描くことにより理解を深めることができました。もちろん、一人で読むことも可能ですので、是非とも挑戦して欲しいと願っています。
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松澤照男 先生 附属図書館長
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第2回
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カラマーゾフの兄弟 / ドストエフスキー著 (光文社, 2006-2007) |
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大学生のころは理系の学部にいましたが、ほとんどロシア文学ばかり読んでいました。中でもドストエフスキーが偉大で、ほとんどの作品を読みましたが、中でも「カラマーゾフの兄弟」は強烈な印象が残っています。
ただ、当時の本は活字が小さく、非常に読みにくかったのですが、2006年に光文社の方から新訳が出て、非常に読みやすくなりました。ロシア文学は食事のシーンが少なく、食事というものが人生で大事ではなかったのかと思います。現代の日本では食レポが大流行で、その差を感じます。 |
浅野哲夫 先生 学長
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第3回
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ボクの音楽武者修行 / 小澤征爾著 (新潮社 , 2002) |
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私はクラシック音楽が好きで、以前はよくコンサートを聴きに行きましたし、CDもかなりの数を持っています。また、読書も好きで、今でも色々な本を毎週3冊程度は読んでいます。ということで、今回は両方の趣味を併せて音楽家の書いた本を選びました。
著者は小澤征爾です。彼はいまさら言うまでもなく世界的な指揮者ですが、若い頃に「ボクの音楽武者修行」というとても面白い本を書いています。これは、小澤が20代前半に貨物船に乗って単身日本を離れ、フランスのコンクールに優勝してキャリアを築いていくまでの自叙伝です。この本の中で、日本で指導を受けた斎藤秀雄という先生のことが何度も書かれています。齋藤秀雄はチェリストで指揮者でもあった当時の日本を代表する音楽家なのですが、同時に優れた指導者でもあり、特に指揮法については今でも通用するメソッドを確立したことで有名です。小澤がこの先生の教えをとても大切にしていることがこの本から伝わり、若い時に一生の宝になるような教えを受けることの幸せと、その大切さを感じ取ることが出来ます。そういう意味からも、特にこれから世の中に出ていく学生諸君に読んでもらいたいと思います。小澤は、ずっと後年に作曲家の武満徹と「音楽」という、そのものずばりのタイトルの対談集を出しています。これも、クラシック音楽好きには堪らない内容になっています。
その他にも多くの演奏家が楽しい本を書いています。音楽好きの皆様、これからの秋の夜長にぜひ読書もお楽しみください。 |
寺野稔 先生 総括理事
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第4回
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From here to diversity : globalization and intercultural dialogues / edited by Clara Sarmento (Cambridge Scholars, 2010) |
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The world today is experiencing an unexpected wave of rejection of diversity.
This book presents concrete discussions to comprehend the necessity of appreciating diversity in the globalizing world. |
川西俊吾 先生 副学長(国際広報担当) グローバルコミュニケーションセンター長
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第5回
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「空想自然科学入門」他 (アシモフの科学エッセイシリーズ全15巻) / アイザック・アシモフ (早川書房, 1978) |
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海辺に行ってコップ一杯の海水をすくって流し,しばらく経ってからまた同じコップで海水を一杯すくったとき,前に流した分子が再びコップに入ることがあるでしょうか.
地球の歴史を一年に例えると人類が現れたのは何月何日の何時ころでしょうか.さらには進化論.雷と紫外線の刺激だけで核酸が合成される確率はどのくらいでしょうか.
リチャード・ドーキンスを読むたびにいったん説得はされるのですが,何日か経つと「神さまと進化論以外にもっとよい説明ないのか」と思ってしまいます.
人間は大きな数に全く直観が働きません.ここはぜひ科学と大きな数の関係を考えてみてください.計算量という概念が計算機科学を作ったと言っても過言ではありません.
アシモフはSF作家としては若年層向けですが科学エッセイストとしては実に優れています.ぜひ原書(英語)で読んでほしいのですが,多くは絶版で古書も入手が難しいようです. |
東条敏 先生 知能ロボティクス領域・教授
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第6回
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イノベーションのジレンマ : 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (増補改訂版) / クレイトン・クリステンセン (翔泳社, 2001) |
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知識科学の学生のみならず、情報科学、マテリアルサイエンスの学生でも、十分に理解し、楽しみながら読める本として、本書を推薦します。
著者のクレイトン・クリステンセンは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、世界的に著明な経営学者です。
イノベーションのジレンマとは、「顧客に耳を傾け、新技術に投資を怠らず、常に最高水準の製品やサービスを提供して来たイノベーティブとされる優良企業」が、
まさに「その優秀性がために(必然的に)トップの地位を失って行くのだ」という、という逆説的な経営コンセプトであり、その指摘はイノベーション・マネジメント分野における画期的な論考として話題をさらいました。
今となってみれば事例は古いですが、ディスク・ドライブ、掘削機といった業界のほかに、ホンダが進出した北米市場やインテルが支配したマイクロ・プロセッサ市場を分析しています。
理系な者であっても、というより、理系な者だからこそ、本書を読み始めたら、その謎解きの面白さに途中で止められなくなると思います。だまされたと思ってぜひ一読ください。 |
神田陽治 先生 知識マネジメント領域・教授
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第7回
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二重螺旋 完全版 / ジェームズ・D.ワトソン (新潮社, 2015) |
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DNAの二重らせん構造の解明で著名な分子生物学者、ワトソンがその発見に至る道筋を自ら語った本であり、飛び級で大学を卒業し22歳でPh.D.となった青年の青春モノローグでもある。
科学的発見の大志を抱く若者の自画自賛的な語り口によって遺伝子の物質的本体を推定し、構造を明らかにした日々を克明に綴っている。当時はまだ、遺伝子の本体についてタンパク質説や核酸説が論争していた時代であり、その究極の課題に対してDNAの構造推定をすることで答えを導いた科学者の日常が興味深い。
ワトソンは確かに天才だと思うが、後年のマッドサイエンティスト的な風貌を知る私にとっては、その破天荒さにうなずいてしまう。
元々の「二重らせん(講談社文庫)」旧版からは削除されていた章を復活させたり、書簡や資料写真、さらには実験ノートの図版などを追加して完全版としており、科学史としてもまた、科学を志すための心構えを説く書としても貴重である。 |
塚原俊文 先生 生命機能工学領域・教授
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第8回
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水とはなにか : ミクロに見たそのふるまい / 上平恒 (講談社, 2009) |
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水は地球上に多量に存在し、多様な生物を育んできた。人間も水なしでは存在できない。水は我々にとってありふれた存在であるが、物質としての水を観ると、その特異性は際立っている。わずか分子量(H2O)が18なのに、沸点が100℃と高い。
分子量16のメタン(CH4)の沸点がマイナス182℃であるのでその高さが実感できる。また、水は液体から固体(氷)になる時、体積が増える例外的な物質である。これらの原因は、水の高い極性にある。電気陰性度の極端に異なる、水素(プラス)と酸素(マイナス)が結びついているので、水素にプラスの手が二本、酸素にマイナスの手が二本、できる。
そのために、水分子は強い分子間力で互いに結びつき(水素結合)、構造を作る。強い極性と構造を持った液体、水のこの性質は様々な現象を引き起こす。本書は、そのような水の不思議な性質とそれがもたらす思ってもみない世界を、平易にしかも専門的にも妥協せず紹介している名著である。一般の人にとっても専門家にとっても未知なる水の世界が探勝できる本と思う。 |
下田達也 先生 名誉教授
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第9回
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レ・ミゼラブル / ユーゴー (岩波書店, 1987) |
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図書館に無いのが不思議なくらい有名な作品なので、あえてコメントするほどでも無いが学生にお勧めなので敢えて記載したい。たった1本のパンを盗んだために19年間もの監獄生活を送ることになった主人公の生涯を描いている。
ナポレオン1世没落直後の1815年からルイ18世・シャルル10世の復古王政時代、七月革命後のルイ・フィリップ王の七月王政時代の最中の1833年までの18年間を描いており、迫力ある文章でフランス革命、ナポレオンの第一帝政時代と百日天下、七月革命、六月暴動などの状況が手に取るように分かるため、歴史書としても重要と感じる。
150年間も世界中で読み継がれているだけのことはあり、まるで映画を見ているような錯覚に陥るほど見事な内容である。最も美しいとされる時代のフランス語を訳しておりこれを読むだけで語彙力もかなり上がる。 |
金子達雄 先生 環境・エネルギー領域・教授
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第10回
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完本妖星伝 / 半村良 (祥伝社, 1998) |
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情報メディア分野の研究者の多くは,中二病患者です.Wikipediaによれば,中二病とは「『中学2年生頃の思春期に見られる,背伸びしがちな言動』を自虐する語.転じて,思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング.」とあります.
この後者の「転じた」意味の方の中二病の患者が情報メディア分野の研究者には多く,そのなれの果てが,私自身を含む情報メディア分野の大学教員です.情報メディア分野の研究者の重要な使命のひとつは,未来の暮らしや社会を創造することです.それゆえに,当該分野の研究者には,すぐれた空想力(もっと言えば,突飛な妄想力)が求められます.
Science Fiction (SF)は,そんな妄想力を育てるにはうってつけのジャンルです.私自身も,これまで様々なSF作品を読んで妄想力を鍛えてきました.その中で,特に高2時代(中2ではなくw)に強い影響を受けたのが,この半村良氏による伝奇SF作品「妖星伝」でした.現在,SETIに代表される,地球外生命体探査プロジェクトが精力的に推進されていますが,
その奮闘にもかかわらず,まだ地球外生命体が存在する天体の発見には至っていません(もうすぐ見つかりそうな気配はありますが).いかに地球という星が,宇宙において特殊な存在なのかがわかります.なぜ地球だけがこのようにむやみに命に満ちあふれる星になったのでしょうか.我々は,植物の新芽が萌え,動物たちが活発に活動を開始する春の風景を美しいと感じますが,この光景は果たして本当に美しいものなのでしょうか.
命は,生きながらえるために,互いに啖い合うことを運命づけられています.そんな弱肉強食の饗宴たる地球の春は,宇宙的観点から見れば実は非常に醜い世界なのです.いったい誰が,何の目的で地球をこんな醜悪な地獄の星にしてしまったのでしょうか.この疑問に,半村良氏は妖星伝で衝撃的な解答を提示しています.
常識的な価値観の逆転をぜひ本作品で体験し,妄想力を必要とする研究の糧にしていただければと思います.私が現在進めている「妨害による支援」や「不用知の活用」などの研究における研究スタンスは,この作品による既存価値観の破壊を原体験としているようにも思えます.最後に余談ですが,本書のBGMには,Igor Stravinskyの「春の祭典」がお勧めですよ. |
西本一志 先生 ヒューマンライフデザイン領域・教授
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第11回
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量子と実在 : 不確定性原理からベルの定理へ / ニック・ハーバード (白揚社, 1990) |
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一般書籍にレシピを集めた“クックブック”や裏通りの見所を紹介する“ガイドブック”があるように、学術書籍にも趣が異なる本がある。
マテリアルを表現するために、クックブック的「量子力学」本は必要だ。現代の科学技術は量子力学抜きに語れない。けれど、その表現している意味(裏)に思いを馳せるときがある。
日頃、物理的研究をしてはいるのだけれども、“量子”は人間の経験知を超えている。もはやSFのような世界へ私たちを陥れているのかも…。本書は、そんなガイドブックです。
アインシュタインは言った。「マウスが宇宙をちょっと眺めるだけで、宇宙ががらりと変わってしまうといったことは、私には想像もつかない」と。その後(今から約50年前)、
「実在は非局所的である」とベルの不等式は証明してしまった。
現在、量子情報通信で“量子もつれ”が利用されている。その一方、パラレルワールドはどう捉えるのか?すでに物理は、世界を認知する常識や通常の感覚を我々に放棄させてしまっていたことが明かされる。 |
富取正彦 先生 応用物理学領域・教授
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第12回
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多変量統計解析法 / 田中 豊/脇本 和昌 (現代数学社, 1983) |
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我が国ではデータサイエンティストやAI人材が足りないなどと言われていますが、これは自業自得というもので、中学、高校の数学教科書で確率統計を巻末付録の如くぞんざいに扱ってきた結果でしょう。理論科学、実験科学、そして前世紀後半からの計算科学という3つの科学がありますが、インターネットが出てきた今世紀に入り、大規模データ科学という第4の科学が出現し、その威力を発揮しています。今、AIと呼ばれているものもその一部です。本書は、私が学部のときに初版を入手したような古い本ですが、類書とは異なり、各手法の位置づけが明確に示されており、目次の次のページには目的ごとにどの手法が適用できるかといったフロー図まで記載されています。自分の扱おうとしているデータがどのような形をしているのかを大まかでも掴むためのツールとして多変量解析が自在に使えれば、どのような研究分野においても助けになることと思います。 |
丹康雄 先生 セキュリティ・ネットワーク領域・副学長
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