どちらも執筆にはたいへんな労力を要しましたが,自分の研究成果をページ数の制限を気にすることなく, 体系的にまとめる作業はとても楽しいことです. その時代その時代に様々な研究を行ってきましたが, 自分自身も調査したことや研究したことを忘れてしまします. 博士論文は,ある時代の自分の研究活動の集大成であり, 博士論文としてまとまっていることで後から参照することができます.
また,自分の研究の興味を持ってくれる人に,博士論文として渡すことができます. 特に,これから研究を始める人にとっては,博士論文の先行研究調査は,参考になるはずです.
社会人の場合,時間の捻出がたいへんです.ある程度集中できる時間を確保しないと進みません. お正月やゴールデンウィークは集中するチャンスです.そのためには,ご家族の理解が不可欠です. 私の場合,朝早く起きて会社に行く前に,1〜2時間ほど集中して執筆をしていました.
先行研究や関連研究に関しては,論文を読んだ時点で半ページほどの要約を書いておくと, あとが楽です.博士論文の場合,参考文献が100以上になると思うので,書き残しておかないと 自分自身でも忘れてしまいます.
博士の学位を取得する目的は人それぞれだと思います. ただ,「自分のアイディアをカタチにして世に問う」ことに 喜びを感じることが大前提と思います. この喜びを感じられない方には,学位取得はお勧めしません.
まだ世の中では認識されていないが,自分の中にはあるモヤモヤしたアイディアを, 試行錯誤の中でなんとかカタチにしていくプロセスこそ研究の醍醐味です. 重箱の隅をつつく研究では,この醍醐味は味わえません.
JAISTでは,「博士前期課程」「博士後期課程」という呼び方をしています. これは,原則は5年間で博士を取得するという設計になっているためです. 実際,社会人でも「博士前期課程」修了後に「博士後期課程」に進まれる方が多いです. 「博士前期課程」で研究論文を書く喜びと苦労を学び,「博士前期課程」のうちに 成果を学会で発表する人が多いのもJAIST社会人コースの特徴です.
博士学位取得をめざして博士後期課程に入学を希望される方は, 博士課程の前半は既に終わっていて,「研究のあらすじ」と 「学位取得の見通し(航路図)」は固まっていることが前提となります. 博士後期課程の入試では「研究のあらすじ」と「航路図」を審査します. 通常は,博士前期課程(修士)の修士論文執筆を通じて, 「研究のあらすじ」と「航路図」は本人も指導教員も「たぶん行けるだろう」という 認識を共有した上で,進学するのだと思います. また,そのような場合は,修士論文の内容でジャーナル論文への投稿や 査読付きの国際会議での発表ができると考えています. そして,博士後期課程に入学後の研究を2本目3本目のジャーナル論文として 投稿・採録を目指します.
博士前期課程(修士)を他大学で修了された方の場合は, 「研究のあらすじ」と「航路図」を持っていることは前提ですが, 内平研究室では,JAISTの博士前期課程からの内部進学者と同様に, 「修士論文の内容でジャーナル論文への投稿や 査読付きの国際会議での発表ができる」段階にあることを 受けいれの前提としております.
社会人の場合,JAISTの博士前期課程からすぐに博士後期課程に進学せず, いったん学生でない状態(学費は払わない)で修士論文の内容でジャーナル論文を投稿し, 採択されてから博士後期課程に入学される方がいます. この場合,学位取得はスムーズで3年かからず短期修了される方もおります.
知識科学の博士の学位取得を目指したいが,「研究のあらすじ」と「航路図」が まだ明確でない方は,JAISTの場合原則は5年間(博士課程前期・後期)で博士を取得するという 設計ですので,「博士前期課程」から入学されるのが「近道」では ないでしょうか?
学位論文執筆は山登りと同じです.途中いろいろ苦しいこともありますが, 終わってみると充実した達成感で清々しい気持ちになれます. 同時に,次の山(論文)に登りたく(チャレンジしたく)なります.
一度,学位論文執筆(山登り)を経験すると,2回目はずいぶん全体の 見通しが良くなり,勘所もわかりますが,初回は先が見えずたいへんだと思います. 通常の理工系ならば,卒業論文(高尾山・丹沢),修士論文(北アルプス), 博士論文(ヒマラヤ)とステップアップしきます. 博士論文(ヒマラヤ)を目指される方で,その分野での卒業論文(高尾山・丹沢) や修士論文(北アルプス)の経験がない方には,入学前にその分野の学会発表など 経験を積まれることをお勧めしています.
ちなみに,修士論文までは,登頂が難しい学生には教員が手取り足取りサポートする こともありますが,博士論文ではそれはしません.博士学位は研究者の免許証であり, 手取り足取りサポートしないと遭難してしまう人に,免許証を出すわけにはいかない からです.