空手における効率的な技の伝達方法の分析と支援

鹿島 貴(現在,翔栄学院)


空手の道場は世の中にたくさんあります.そして,道場における指導方法も流派毎に,さらには道場毎にいろいろあって,千差万別です.しかし,全体としてみると,近年の指導方法は,各種の機具を使った筋力トレーニングと,サンドバッグなどを使った実践指向トレーニングが主流となっており,トレーニング風景だけを見ているとボクシングのトレーニングとほとんど区別がつかないようになってきています.しかし,こういったトレーニング方法は本当に空手の習得にとって効率的なのでしょうか?昔ながらの基本稽古や移動稽古などは,意味のない練習方法だったのでしょうか?

そこでまず,黒崎健時氏,佐藤勝昭氏,大沢昇氏,関登氏という4名の超一流の空手家の方々に対しインタビューを行い,空手の効率的な指導方法についてお尋ねしました.その結果,4氏が口をそろえて「伝統的稽古」の重要さと,その反復の重要さを主張されました.そして,今流行のボクシングのような稽古法では上達できないということを指摘されました.では,伝統的稽古法,すなわち基本稽古と移動稽古にはどういう意味があるのでしょうか?近年,これらの伝統的稽古は一般には古くさく,非効率的で,実際的(実戦的)意味のない「型」の真似に終始する退屈な稽古として斥けられてきました.しかし,達人諸氏は,そうではなく,伝統的稽古こそもっとも合理的で重要な稽古法だと主張するのです.

そこで,本研究では基本稽古と移動稽古の動きを力学的に分析しました.その結果,基本稽古は身体の「回転軸」の確立とその安定を産み出す稽古であること,および移動稽古は「重心」の安定を産み出す稽古であることがわかりました.しかし,このことを理解せず,ただ単なる型の模倣として練習に取り組んだでのは,肝心の軸や重心の安定につながりません.たとえば,基本稽古の一つである正拳中段突きでは,突き出す手の方に意識がいってしまいがちですが,「軸」の形成と安定という視点から見ると,実は「引き手」が重要であることがわかります.一部の指導者は,このことを経験的に知っており,「引き手が重要である」ということを指導しています.しかし,なぜ,何のために引き手が重要かを理論的に示す指導者はほとんどいません.本研究では,このような伝統稽古の意味を理論的に明らかにしました.さらに,白帯,緑帯,茶帯,黒帯の4つの段位の空手家に技の実演を行ってもらったものを記録し,軸と重心の変動を測定しました.その結果,段位が高くなるほど,おおむね軸や重心の変動が少なくなるという結果を得ることができました.


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