DJの創造性を拡張する機能統合ソフトウェアDJシステム

藤本貴之(現在,ハラキリ・レコード)


DJは,従来の単に選曲して切目無くレコードをかけ続けるだけの役割を超越し, 今や新種の作曲家あるいは演奏家として,その活動の幅を広げてきています. 今後は,ますますDJと従来の音楽家との融合が進んでいくと思われます.しか し,サンプラーなどの導入例は見られるものの,現在DJ達に与えられている機 材は,かつての「切目無くレコードをかけ続ける」ことを主な仕事としていた 時代のDJ機材から,基本的に変化していません.これまで,創造的なDJ達はこ のような旧態依然たる機材を駆使して新しい音楽表現を産み出してきましたが, そろそろこの試みも飽和点に近づきつつあるようです.

そこで本研究では,DJを「音楽家」という視点から捉えなおし,DJパフォーマ ンスとは何かをまず考察しました. その結果,DJが行っている作業は,Improvisational Renovation(即興的刷新) であるという結論にいたりました.つまり,DJとは,従来の音楽演奏のような ひとつひとつの「音」を作品の構成要素とするのではなく,既存の音源から切 り出した「音の塊」を構成要素とすること,そして,その「音の塊」は,元の 音源の「メルクマール」を最後まで保ち,元々その音の塊が何であったのかに 関する痕跡を失わせないこと,そして,最終的に,録音された「音」という 「アウラ(一回性)」を失ったものから「アウラ」を即興的に産み出して,一 つの新しい音楽作品を構築するような創造行為であるということです.

そこで,このようなDJにおける音楽創作の特徴をふまえつつ,その強化拡張を 行うためのシステムとして,機能統合型ソフトウェアDJシステム ExDJ を構築 しました.ExDJは,従来のDJ機器をソフトウェアによって置き換えることを 目指すものではなく,ターンテーブル,CD-Jに次ぐ,第3のDJ機器として位置 づけられるものとして開発を進めました.したがって,ターンテーブルや, CD-Jにはできなかった,ExDJならではの Only-one な機能が必要です. それは,「音の空間定位機能」「音の塊の鍵盤へのマッピング」 「外部音の取り込み機能」の3つの機能として実現されました.

実際に作成したシステムを用いて,プロのDJやミュージシャン(元電気グルーブの 高橋浩二氏に依頼)し,音楽製作やDJパフォーマンスを試みてもらい,本システム が実用性が十分あることを立証し,さらに実際に作成した作品をCDとして 市販することができました.この他,ExDJの操作インタフェースを組み込んだ ジャケット DJacket も製作し,システム全体をウェアラブル化することも試みました. これによって,従来DJブースに縛り付けられていたDJが,自由にフロアに飛込む ことが可能となります.つまり,DJが「高見」の視点ではなく,聴衆の視点で 自身の産み出すパフォーマンスを感じることが可能となるわけで,これによって 新しい気付きや閃きを得ることが可能となるのではないかと考えています.

本研究に関しては,以下の発表を行いました.


Contact: t-fujimo@jaist.ac.jp