インターネットは消費者と企業との関係を大きく変え,企業が直接,顧客のニーズを手に入れられるだけの環境ができつつあり,商品開発に影響を与えている.特に技術革新が速い市場では,その商品開発力が競争優位の源泉となりうる.
そこで,ネットコミュニティに集まったリード・ユーザーや一般のユーザーが交わす議論の中に,最終的な価値を創造する企業の人間が参加し,共に議論を行うことで,表面的なニーズ情報だけではなく暗黙的なニーズを理解し,さらにそれを活かすことで,新たなイノベーションを創出するネットコミュニティにおけるイノベーションモデルを提案することを目標として,ユーザーの視点から,特定の車種を中心としたネットコミュニティに対し参与観察を行い,企業の支点からコミュニティを運営している企業へインタビュー調査を行った.
その結果,ネットコミュニティと企業との間を取り持つ人材として,ゲートキーパーによる仲介が必要であり,この人物により,企業とネットコミュニティの間にある言語スキームの違いなどを吸収し,コミュニティでの経験を通して暗黙知を効果的に伝達する必要性について触れた.こういった人材を企業とネットコミュニティの間におくことで,新たなイノベーションを創出できるイノベーションモデルを提案している.
またこの研究課程で,当初目標としたモデルの提案だけでなく,ネットコミュニティの中で行われている知識創造プロセスについて明らかにすることができた.ネットコミュニティで知識創造を行うには,実践者の知識創造レベルとドレイファスモデルを比較し,実践者に有る程度の段階が必要である事を明らかにした.また,ネットコミュニティでの知識創造プロセスにはインターネットコミュニティの特性により,「フェイズ1」と「フェイズ2」の段階があり,これを効果的に促進する様なネットコミュニティ場をデザインする事が重要であることを明らかにした.