[研究紹介(暫定版)]

バラの花のフォトリアルなコンピュータグラフィックス生成に関する研究
〜生長特性および品種を考慮した微視的・巨視的構造に基づくバラ花弁反射・透過モデル

Abstract

植物のコンピュータグラフィックス(CG)は,環境シミュレーション,公園や庭園設計等のコンピュータによる支援,映画・CM・コンピュータゲーム等で用いられるコンピュータアニメーションのための景観画像合成などで広く用いられている.CGの生成では物体形状および表面の質感表現が重要である.植物のCG生成のための形状表現手法としては,L-system等の植物形状の自己相似性に着目しフラクタル理論を用いて植物形状を生成する手法や,樹木の生長に様々な環境パラメータを導入してリアルな形状生成を試みる等の報告がある.また,植物表面の質感表現手法としては,これまではLambertやPhong等のモデルが用いられてきた.

しかし,赤いバラの花(品種:Rote Rose)は,花弁表面に白く浮き出るハイライトにより独特の質感を表出し,その反射特性は従来のシェーディングモデルでは表現できなかった.寺戸らは,バラ花弁の細胞構造に着目し,表層にあるドーム形状を成す上面表皮細胞および,その下層の海面上組織の形状・シェーディングモデルを検討した.そして,光源方向へ高い割合で反射する特性をもつバラ花弁の反射光特性を良好に近似し,赤いバラの花の花弁表面の質感を再現できた。しかし,バラ花弁は半透明であり,バラ花弁の質感表現のためには,反射だけでなく透過についても検討する必要がある.また,バラの花には複数の品種があり,品種によりハイライトの表出度合いは異なる.さらに,バラの花は生長の度合いによっても品種によりハイライトの表出度合いは変化する.よって,バラ花弁の質感表現には,品種及び生長を考慮する必要がある.

本研究では複数品種および生長を考慮したバラの花のフォトリアルなCGを生成する手法の構築を目的とする.寺戸らのバラ花弁反射モデルを拡張し,複数品種および生長を考慮した微視的・巨視的構造に基づくバラ花弁反射・透過モデルを検討する.ここで,微視的構造とは,細胞の様に肉眼では直接観察できないスケール(これを微視的スケールと呼ぶ)の構造を指し,また花弁や花全体の様な肉眼で直接観察できるスケール(これを巨視的スケールと呼ぶ)の構造を巨視的構造と呼ぶ.まず,花弁表面のハイライトの表出度合いが異なる複数品種のバラ花弁に対して反射・透過光特性を測定する.次に,バラ花弁の上面表皮細胞および海面上組織の2層構造に着目し,それぞれの層で,指向性および無指向性の反射・透過のメカニズムをモデル化し,反射・透過それぞれについて4つの反射・透過光成分を得る.4つの反射・透過光成分の線形和により,複数品種のバラ花弁反射・透過光特性の表現を試みる.4品種それぞれの反射および透過光特性を反射・透過光成分の混合比率を変えることにより,実際の反射・透過光特性を約10\%以下の誤差で近似できることを示す.また,バラ花弁は生長度合いによりハイライト表出度合いが変化する.顕微鏡を用いて花弁細胞の形状変化を調べた.その結果,生長度合いにより,上面表皮細胞の幅と高さの比が変化することが分かった.得られた幅と高さの比を用いて,生長度合い毎に異なる反射特性を約10%以下の誤差で近似できることを示す.さらに,バラの花のCG生成のために必要な花冠形状を得るために,実際のバラ花冠を花弁に分解し,それぞれの花弁形状および花弁の位置,向きを計測し,計算機上で花冠形状を合成した.最後に,検討した反射・透過および形状モデルを用いて生成したCG画像を示す.
 

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研究成果
 
 
立野竜也,寺戸育夫, 剣持雪子, 小谷一孔, 
"微視的・巨視的構造に基づくバラの花のフォトリアルなコンピュータグラフィックス生成〜反射モデルと形状モデル〜", 
電子情報通信学会技術報告, Vol.GCAD 99-CG-96, pp.67-72, 1999. 
Abstract|| 予稿(ps.gz)
立野竜也,寺戸育夫, 剣持雪子, 小谷一孔, 
"微視的構造に基づくバラ花弁反射モデル〜複数品種への拡張〜", 
映像メディアシンポジウム(IMPS99)予稿集, pp.17-18, 1999. 
Abstract|| 予稿(ps.gz)
立野竜也, 剣持雪子, 小谷一孔, 
"バラの品種と生長特性を考慮した花弁の微視的構造に基づく反射・透過モデルとCG画像生成", 
電子情報通信学会技術報告, Vol.CVIM CG-120, pp.65-72, 2000. 
Abstract|| 予稿(ps.gz)

 


小谷研究室
北陸先端科学技術大学院大学