ikeda lab

ゲーム内行動を転用して意思疎通するAI


図1.プレイヤがアイテムを見つけ“ジャンプ”で知らせ,“しゃがみ”でお礼をする様子

背景と目的

 皆さんがゲームをプレイするとき,「高スコアの獲得」,「ステージクリア」や「敵を倒す」といったゲームから与えられた目的をこなすことになると思います.
しかし,ゲーム中にその目的とは別に「味方プレイヤにゲーム内の情報を伝える」,「一緒にゲームを楽しんでいるぞ」などの意思疎通や感情表現を,移動や攻撃などのゲーム内行動で伝えようとすることがあります.
    例えば,
  • アイテムが落ちている場所でジャンプを繰り返し仲間にその存在を教える(アクションゲーム) [ 図1 ]
  • 倒した相手に向けて執拗に銃弾を撃ち込む,立つ⇒しゃがむ⇒立つという動作を繰り返し行う(FPS) [ 図2 ]
  • 離れた相手に弱パンチを繰り返し対戦相手を挑発する(格闘ゲーム)
  • 何もない場所だけど何度もジャンプを繰り返す(スーパーマリオのような横スクロールのゲーム)
  • ぷよを回し続けてゲームオーバーになるまでの時間を稼ぐような悪あがき(ぷよぷよ)
  • などです.

図2.敵を倒したプレイヤがジャンプなどで煽っている様子
 これらの行動は様々なジャンルのゲームで形を変えつつも頻繁に見られるもので“ゲームの目的達成のみを追求する AI”では生まれにくい挙動です.しかし,非常に人間らしいもので重要だと考えています.また,こうしたゲーム内で相手と意思疎通を図ろうとする行動に関する研究はまだ行われていませんでした.
 本研究を行うことで,AIプレイヤが人間プレイヤのようにアイテムの存在を行動で働きかけてくれたり,挑発的な行動で「憎たらしい!絶対に倒してやる」と思われるような,より人間らしいAIプレイヤに繋がると考えています.
 私達は,そうしたゲーム行動を用いたコミュニケーションが発生する条件,AIによる再現手法について考察しています.

アプローチと結果概要

  本研究では,行動事例を収集しプレイヤの行動を目的別に分類を試みたところ,だいたい7種類に大別できることがわかりました.これらをゲームの主目的達成にどの程度関係するかで並べたものが図3になります.

図3.ゲームの主目的達成に関係する行動

  • 警告 :多人数ゲームにおいて,他プレイヤに対する警告の意図をとっさのゲーム内行動で伝える.[図4]
  • 催促 :ゲーム内行動を用いて味方・相手プレイヤに自分が望む適切な行動を指示する[図1]
  • 挑発 :わざと相手が有利になる行動を取るなどで,相手の感情を逆撫でする.[図2]
    例えば,レースゲームで対戦している際に,ゴール直前でわざと停車し他プレイヤが近づいてきたらゴールするような行動がこの行動にあたる.
  • 挨拶・謝罪 :「よろしくお願いします」「ごめんなさい」といった意図を チャット等の言語的コミュニケーション機能を使わず/併用して伝達
    MMORPGで見かけられるが"しゃがむ"という動作を繰り返し行うことで,土下座や,挨拶を表す行動として見られた.
  • 共感 :あるプレイヤの行動に対し,他のプレイヤが同じような行動で応える 相手と同じ気持ち・楽しさを共有している事をアピールし,気分を盛り上げる行動
    例えば,数人のプレイヤが一箇所に集まり待機している際,一人のプレイヤがその場でぐるぐるとキャラクターを回して暇を潰していたところ,その行動を真似するプレイヤが現れた.そのような共感を示しているように見える行動を指す.
  • 魅せプレイ :本来ゲームを進める上で必要のないが,見た目が派手な行動 難易度の難しい技を決めるなどが当たる.
  • 自己満足 :ゲーム内であえて難しい事に挑戦したり,好奇心を満たしたり,楽しいと思う事,無意識に行動してしまう行動を扱う
    例えば,自由におけるアイテムを文字の形に設置したり,FPSの銃痕を用いて壁や地面に絵や文字を描く.

  • 図4.警告に関するゲーム内行動模式図


     これらの行動が現れやすいかどうか,AIも模倣すべきかどうかなどは状況によります.例えば,「プレイヤがゲームから受ける制限/精神的ゆとりの有無」は,ゲーム内行動に大きな影響を与えます.

    • ぷよぷよでお邪魔ぷよが画面一杯に広がってほんの少しのミスで負けてしまう
    • 格闘ゲームで相手の体力は沢山あるのに,自分はもう瀕死寸前
    • チームアクションで,自分は一人 でも相手プレイヤは集まってきている
    • 次に取る行動がゲームの勝敗に深く関わっている場面
    などのような余裕がない緊迫した状況では,発生のための時間的・空間的余裕が無いためあまりゲーム内行動で意思伝達は生まれないと考えられます.また,囲碁や将棋のようなボードゲームでは一手一手の行動が勝敗に直結しているためこのような行動は発生しにくいと考えられます.
    逆に,余裕がありすぎる状況ではチャットなどの正式な手段で意思伝達がされると考えられます.つまり,それらの間の程度の余裕のとき,こういった行動が創発されやすいと考えます.

    今後の課題・展望

     最終的には,ゲーム内行動で人間らしさを表現する,人に気づきを促す,協調するAIエージェントなどを作ることが目標です.
     しかし,既存のビデオゲームのように複雑なものでは,どのような要素が「人間らしさ」や「協力的」などに繋がっているのか確かめることが困難です.その為ゲームの要素を簡略化したシステム上で確認する作業が必要となります.現在は,マルチエージェントシステム上での行動が,意思疎通を図っているように見える行動の創発を試みています.

    研究担当者,業績,リンク等

    ・本研究は中川絢太が開始し,担当しています.
    ・本研究は研究会論文が採録されています.
     - 中川絢太,佐藤直之,池田心:
       ゲームの目的達成のみを追求したAIでは生まれにくいゲーム内行動の分類と考察
      ゲーム情報学(GI),2016-GI-36(20),1-9 (2016-07-29) , 2188-8736