スペシャルセッション(第2日目、4月21日)


BAC2000スペシャルセッション

つくられるモノ/うまれるモノ

「科」とは,「一定の標準を立ててものを区分した一つ一つ」のことを意味します. 「分ける」ことに基盤を置く近代科学の恩恵は認めつつも,既存の分科制度に少なか らず抵抗を感じたからこそ,多くの学生たちが異分野交流を目指すBACに集まってき ました.そこで,このような抵抗感が単なる危惧で終わるのか否か,BACに参加した 学生同士で徹底的に議論を交わす機会を設けることにしました.ここでは分科の境界 線を「つくられるモノ/うまれるモノ」の境界に代表させ,この区分の下に4つの テーマを掲げて「科」の功罪を問うてみたいと思います.会議で話し合うのは,次の 4つです.

テーマ1 科学vs生命

われわれは科学技術の恩恵に授かりながらも,それが生命を奪ったり苦しめたりする 諸刃の剣であることに苦悩してきた.科学が生命を扱おうとするとき,われわれは如 実にその抵抗を感じ,「倫理」によってそれを規定しようとしてきたのである.人工 知能や人工生命へは邪推の念が向けられ,クローン技術に対しては頑としてそれを認 めることが出来ない.この問題に対して,特に人工知能や人工生命を研究対象として きた学生諸氏と倫理に関して思索をめぐらせてきた学生諸氏を話題提供者に迎えて議 論を行う.

テーマ2 科学vs芸術

科学と芸術の対比は,得てして客観と主観の対比に読み替えられる.客観に立脚する 科学,主観を追求する芸術.科学は主観を排除し続け,芸術は客観を忌嫌ってきた. しかし今,科学は主観との共存を求め,芸術は評価という客観から逃れられない.そ こで,客観性を強く意識させられてきた工学系の学生諸氏と,主観性を強く意識して きたと考えられる芸術系の学生諸氏,それぞれから話題を提供してもらい,果して主 観と客観との共生があり得るのかについて議論する.

テーマ3 教育vs文化

社会が向かう時代の流れを後追いする形で進む教育.教育とは文化を伝えるものだと ある人は言う.文化は創られていくものであると同時に,過去のものという歴史その ものである.過去の出来事は常に現在において解釈され,この現在が変わってしまう とき,文化の価値は歴史ゆえに変わってしまい,過去の古き良き時代は単なる幻想に 終わってしまう.そんな時代の中,教育はどこへ向かっていくのか.教育にとって文 化とは何かが今問われている.ここでは伝統文化研究や宗教学に携わってきた学生諸 氏と,芸術教育や文化教育に志ある学生諸氏とに話題を提供して頂いて議論を行う.

テーマ4 教育vs個

教育は人手によってつくられるモノ.しかし,その教育が個までをもつくろうとする ことは誤りである.既成の教育法の反省から教育改革を謳うものの,「ゆとりの教 育」や「個性を引き出す教育」などキーワードばかりが一人歩きし,高台から眺めた 「モノつくり」の姿勢にまでテコいれされることはなかった.本テーマの主たる狙い は,現在も教育を享受している学生の立場から,当事者不在の教育改革案に対する提 言を見つけることである.個が「うまれてくるモノ」であることを踏まえればこそ, これを育むような土壌作りが教育にとって大切なことであり,BACのような学際的な 集まりを提供することが個の創生にいかに寄与出来るかについて議論する.



各テーマをあえて対立概念として列挙しましたが,これらには賛否両論あると思いま す.もちろんこれらの境界が不適切であるかも知れませんが,誤解を恐れずに一度線 引きをし,議論の結果,それらが融合されるものであればそれはそれでよいと考えて おります.テーマの擁立に関しましては,そのすべての責任はセッションチェアーに 帰属致します.ご批判やご関心等ございましたら,お気軽にご連絡下さい.また本 セッションの議論の内容に関しては,Web上にて公開し,今後も議論を続けていけれ ばと思います.
文責:塩瀬・佐藤

bac@jaist.ac.jp
Last modified: Wed Dec 8 07:22:56 JST 1999