Info_Know_Doc(Y.Hayashi)

「インストラクチャーの時代」

インストラクションは命令や指令ではない. 説明である. 人が行動をおこす前に, その行動を円滑にし, しかも充実させるための説明だ.

インストラクションで もっとも重要なことは相手をできるかぎり理解させること である. そこに「理解の情報学」あるいは「情報の理解学」というべきコツが必要と なる. 本書の著者はそのコツを披露してくれた.

われわれの日々のコミュニケーションの大半を占めているのは, 相手に何かを伝える ための会話である. そのまた大半はごく短い言葉ですまされている指示である. ところが, 本書の随所で例示されているように, この ちょっとした指示や伝達がうまくいかない.

これが仕事のためのコミュニケーションになると, 取り返しがつかなくなる. だいいち「早とちり」「聞き違い」「一知半解」「勝手な解釈」による コミュニケーションロスは, 重ねてみればあまりにもぼう大になる. 組織変革のためのリストラクチャリングや資源節約をするより, まず インストラクションのしくみをかえたほうが効果的 だとすら思えるのは, そこだ.

情報とは相互理解の関数のことである. 双方向性を失った情報内容は死情報である. しかし, 相互に理解するといっても, そこにはさまざまな理解のしかたがある. この理解の壁をどう突破すればいいか.

まず, 自分の説明がヘタなのだということを知りなさい, 本書の著者はそのように 言う. そうなのだ, われわれは 情報の「地」と「図」を分けようとしていないし, 主語部と述語部を分けようとしていないのだ. 5W1Hも明示していない. これでは相手のわかりようがなかったのである.

もともとポストモダン時代の特徴は「よそよそしさ」にある. 口角泡を飛ばす熱心なコミュニケーションは嫌われる. しかし, ソフトコミュニケーションをすれば, それですむというものでもない. そろそろソフトコミュニケーションの基盤技術 をつくらなければならないのだ. さしずめ「インストラクチャー」ともいうべきが必要なのだ.

- [R.S.Wurman92]の監訳者あとがき (松岡正剛)より部分的に抜粋 -


林 幸雄 (yhayashi@jaist.ac.jp)
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