電子書籍は本を作りなおす
電子テクノロジーは, 2つの意味で本を作り直す.
まず第1に, それは我々がどんな素材の表面に文字を書き記し,
どんなリズムで読むか
という点を変化させることで, 新しい種類の本をもたらす.
第2に, 印刷書籍, 手写本, さらにそれ以前から, 何かを書くことがまとってきた形態
に比肩する電子書籍という
新たな形態を与えてくれる.
- テキストは,
著者と読者が想像力のゲームをくりひろげる格闘場
で,
個々の読者が(理解の)間隙を自分なりの仕方で埋めることが, 読むという
時間的経験(劇や楽譜の演奏のよう)なのである.
- テキストは読者の経験をまってはじめて完全となり,
読んでいく過程では常に絶えず
動く視点を通じてテキストを見てゆき,
異なった局面をつなげてゆく(得た知識が別の時間系列を生み出す).
- 読者はテキストのなかの
別の道筋を辿ることができる(筋の選択).
- テキストの拡張や新しいものの付け加えに, 第2の著者として読者自身を
参加させられる
(終りのないフィクション構造体).
- 最新の電子メディアは, 線的な書き方と
非直線的な書き方を同時に体現
するような形で書物の概念を再定義している.
- 連想はいかなるテキストにおいても常時存在し,
こうした表面上のそれとは別のつながりは,
テキストの背後のテキストと
いった破壊的な性格のものを形作る.
- 段落やページが作り上げる単一の秩序の代わりに多元性をもたらすこ
とで, 索引は書物をツリーからネットワークへと変貌させる.
(ツリーのように)たった1つのトピックが残り全てのトピックを支配してし
まうことはなく, 厳密な従属関係の代わりに,
テキスト空間を縫って進む複数の経路
を持つ.
- HypertextのLinkは, 読み手を1つの記号の解釈から別の
記号の解釈へ移動
させる(記号の結合という観点からの)解釈行為なのである.
- テキスト自体が,
書き手が構築し読み手が実行するプログラム
になる. テキストの意味の多くは, 書き手ですらあらかじめ見通すことが
できない.
- 使いやすいことはWriting Technologyを評価する単なる1つの尺度で,
構造は見かけや便利さよりも重要である
(印刷書籍の大きな利点はベッドで読めることではないのと同じ).
林 幸雄
(yhayashi@jaist.ac.jp)
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