もう少し具体的に問題意識をのべてみましょう。まず、上に書いたレーザー光と 表面との相互作用、特に非線形な相互作用は、どういうモデルで記述していいのか 、まだあまり確立されていません。表面では電子はどのように束縛されていて、 光が来たらどの程度喜んで動くのか。 これも誰も知りません。 私たちはまずこういうことから明らかにするという観点で表面を探っています。
次に 表面でおきる現象を観察するためのいろいろな光学的手法の開発をしています。光で 表面を探る手法を開発する際の重要な点は、感度をよくする様工夫する点です。いままでの 光の分光法は感度がないために表面への適用がおくれていました。この観点から 超高感度表面ラマン分光システムを開発しています。また表面準位の観測に威力 を発揮する波長可変表面光第二高調波発生(SHG)観察装置、試料表面の非対称部位の 二次元分布をみることに威力を発揮するSHG顕微鏡、表面光和周波(SFG)分光 装置、そして光和周波(SFG)顕微鏡などを開発しています。
これらの装置をフル稼働させ、いろいろな表面界面を見ています。 空気中や超高真空中における、触媒表面、半導体表面、 半導体微粒子、金属膜界面、金属ナノ細線で面白い観測結果が得られています、低温における超 電導体でも超電導状態の統計効果が関連すると思われる面白い結果が得られて います。超高真空装置の中では、原子の配列を制御した表面が得られるので、 より規定された触媒現象、結晶成長現象の観察ができます。
3つめの観点は、表面で新物質をつくろう、という観点です。表面は原子や電子に とっては、「先にはなにもない崖っ淵」の様なものです。このような場所におかれ た原子、分子、電子は、安定なバルク中におかれた時とは違った特異な性質を示し ます。ちょうど追い詰められたねずみが猫を噛むようにです。この性質をうまく利用 すれば表面でとても新しい性質をもつ物質が作れる事が期待できるわけです。さらにこれ を繰り返し構造にすれば、超格子様の新しい物質がつくれます。通常の超格子の作成と の違いは、そこに表面物性の考え方が入ってくるというところです。
本当に最後になりましたが、私はロマンチストです。いままで研究をする際 にも、研究内容にドラマ性を求め、それをもって「人を驚かせよう」 「人を喜ばせよう」というような考えで仕事をすすめて きた面も多かったと思います。人が思い通り驚いてくれないことも多いのですが、 でも、そういう意味で、私は科学にロマンを求めています。